紅茶にバラのジャムをスプーン三杯入れたら、イギリスが「入れすぎだバカ!てめーは紅茶を飲むのか、ジャムを飲むのか!?」と怒鳴った。ジャムを飲むだなんて、変なことを言うなあ。やっぱりイギリスはおかしい。俺は笑いながら「なに言ってるんだい、ジャムは飲み物じゃないだろう?」と言った。すると彼は大げさなため息を吐いて「あーもう、なんでてめえは、」と、なにかを言おうとした。けれども言葉の続きは、古臭い電話のベルに奪われた。
即座に彼は、部屋のすみに置いてある古風な電話に向かう。小さくて華奢なのに、装飾がたくさん施されているせいで重くて、発信者番号も表示されない、時代遅れにも程がある電話。なんでこんなの使ってるんだい、と訊いたら、昔から使ってるから、という奇妙な返答をされたこともある。へんなの。家の中でだってケータイ使えばいいのに。やっぱりイギリスはおかしい。
彼は仕事用の堅っ苦しい声で、相手と話し始めた。ただ、俺がいるせいか、具体的な単語は使っていない。あれとかそれとかその件とか、まどろっこしい代名詞を使っている。しかもこっちをチラチラ見て、警戒までしてる。そんなに気を遣わなくても、盗み聞きなんかしないのに。ちょっと神経質すぎやしないかい?まったく、これだからイギリスは。
ちょっとムカっとしてきたので、彼と目を合わせたまま、スプーンでジャムをすくって紅茶の中に入れてみた。彼は目を見開いて、無言で驚きと怒りをあらわにしたけれど、かまうもんか。俺は勢い良くカップを傾けて紅茶を喉に流し込んだ。うん、甘くておいしい。
さじかげん/米と英/2007.04.30.
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