ダークヒーロー

「Ya――Ha――!爆裂重大臨時ニュースだ!今週土曜、校庭でアメフト部の試合やるぞ!」

 うわあ、ヒル魔だ。
 教室でご飯を食べていた私とサラは、手を止めてスピーカーを見上げた。
 試合の相手は、あの賊学だってこと。500万賭けた大勝負だってこと。ウワサのアイシールド21も来るってこと。それらを意気揚々と告げ、放送はブツンと切れた。

 「もう〜」と頭を抱えるまもりとは対照的に、教室内はざわざわしっぱなし。まあ、お昼休みなんだから、もともと騒がしいんだけど。たださっきと違うのは、みんなの話題がヒル魔のことになったってトコ。
 みんなヒル魔のことは恐いけど、でも彼の行動は、見ていてワクワクドキドキするものなのだ(直接の被害にあわなければね)。次は何をやらかすのか気になるし、目が離せない。彼は間違いなく外道なんだけど、人を惹きつけるカリスマ性みたいなものを持っている。
 かくいう私も、ちょっと楽しみになってきた。土曜日の試合、見てみたいなーという気になってきた。ヒル魔の思う壺かな。でもいいや。見てみたい。

「ねえまもり。土曜日、見に行ってもいい?」
「え、ええ、それはもちろんよ……でも、ねえ、なんでヒル魔くんってこーなのかしら」

 OKの言葉と繋げて、まもりはげんなりした顔で言った。ああまた始まったよ。もうヒル魔に関するグチは、何十回も聞いてるよ。ね、サラ。
 と、さっきから黙っているサラを見ると、彼女はストローをくわえたまま、まだスピーカーを見上げていた。

「どうしたの?」

 聞き飽きたグチから話を逸らす意味も込めて、私はサラへ尋ねた。
 するとサラは、夢うつつみたいに、ちょっと浮ついた感じで言う。

「ヒル魔くんってさ、ちょっとカッコイイよね」
「「!?」」

 ちょっ!ちょっとちょっと!ああもうこの子は!まもりの前でなんてこと口走るの!?ほら!まもりが恐ろしく崩れた顔でボキィッって箸を折っちゃったじゃない!ロケットベアのかわいい箸を!ああもう!!

「サラぁ!」
「なんていうかさ、あそこまで突き抜けてると逆に清々しいっていうか、ちょっと憧れちゃうっていうか……もちろん、ああなりたいとは思わないし、関わり合いにもなりたくないんだけど、でも」
「わかったから!後で聞いたげるから!今は黙って!!」

 気持ちはわかる。彼はいわゆるダークヒーローだ。「普通」という事にコンプレックスを持つサラが、羨むのは凄くよくわかる。
 でも、まもりの前でこの話題はマズイのよ!だってまもりにとってヒル魔っていうのは、ヒーローでも何でもない絶対的な悪なんだから!正義と慈愛の塊みたいなまもりには、どーしても許せない存在なんだから!

「サラ、今、なんて……?」

 まもりは、信じられないものを見る目で、静かに問うた。嵐の前の静けさってやつ。
 もうすぐ猛烈な勢いでヒル魔の批判をしまくるんだ。そりゃあもう、ものすごいマシンガントークで。お昼休みが終わるまで。



ダークヒーロー/アコとサラとまもり(26th down)/2006.01.30.
26th downの小話というか、半オリジかも。
いちおう自分設定→アコはちょい勝気で、専らツッコミ。
サラ(咲羅)は普通という事にコンプレックスを抱く超普通少女。
BGM:Fantastic Plastic Machine「One Minuite of Love」