夏の夜が白み始めた深夜と早朝の間に、阿含は部屋へ帰ってきた。既に起きていた雲水は、酒臭い弟にひとしきり小声で怒鳴ると(こんな時間に大声は出せなかった)、荒々しくため息を吐いてから着替えを始めた。朝練前のジョギングは、彼の日課だからだ。
まったくお前はこんな時間までどこに行ってたんだ、と着替えながらも続く小言を無視して、阿含はごろりとベッドに寝転ぶ。過剰に摂取したアルコールが頭の中をぐるぐると回して気持ち悪いが、立っているよりはずっと楽になった。
サングラスをかけたまま仰向けになって、阿含は天井へ向かって呟く。
「おんなじだったら、良かったのになあ。おんなじだったら、こんなに違わなかったはずだよなあ、俺ら」
ろれつが大分怪しい。酔っ払いの戯言かと思い、雲水は返事をしなかった。
ただ心の中だけで、同じでなくて良かった、と呟いた。もし細胞のひとつひとつまでもが同じなのに、こんなにも違ったら、……きっと自分は耐え切れない。
スウェットスーツに着替え終えた兄は、無言でドアを開け出て行った。朝練前のジョギングは、彼の日課だからだ。
同じでない/金剛兄弟/2006.03.24.
BGM:Nujabes「sea of cloud」