8.固定観念なんて知らない (栗田)
曲がり角から急に飛び出してきた石丸くんにぶつかりそうになって、僕は立ち止まった。すると僕の後ろを歩いていた小結くんが背中に、ぽふん、とぶつかってしまった。ごめんね、と後を振り返ると小結くんは「大丈夫です」と言ってくれた。怪我とかしてなくて良かった。いや、小結くんはちょっとやそっとじゃ怪我なんてしないって、知ってるけど。
前に向き直ると、石丸くんがこっちを見ていた。
「ごめんな、ちょっと急いでて。……それにしても仲が良いんだな」
「うん。だってライン仲間だし」
即答したら石丸くんは、はは、と笑った。あれ?僕は変なことを言ったのかな?と思っていたら、石丸くんは目を細めて、少し困ったように笑った。
「いや、ほら……お前達ってずっと2人だったろ?だから仲間が増えて良かったなぁと思って」
「え……」
「あ、いやそりゃ武蔵も一緒だっていうのは判るけど、でも実質、」
「石丸くんもずっといてくれたじゃない。試合のたびに助けてくれるし、ルールにも詳しいし、ヒル魔のことも怖がらないし、それから……」
僕は思いつく限り、ほとんど勢いに任せて喋った。それを聞いてる石丸くんは、やっぱり困ったように笑って「俺は陸上部なんだけど」と言った。そんなこと、関係ないと思うんだけどなあ。