特大の金魚鉢パフェの底に入っているフレークが予想外にやわらかくて、ヤコは眉間にシワを寄せて唸った。本来さくさくとした食感であるべきのフレークが、溶けたバニラアイスのせいでふにゃふにゃになっている。「失敗した」と彼女はひとりごちた。次は、アイスが溶けて染み渡る前にフレークまでたどり着かなくては。
ウエイターを呼びとめおかわりを頼むと、向かいに座った男が「まだ食うのか」と言ってよこした。しかし彼の目は手元の文庫本に向いたままだ。ヤコは「だってまだ腹五分目にもなってないもん」と少しも悪びれずに言った。食欲に忠実でなにが悪い。
すると男は至極どうでも良さそうな声で「そうか」と返し、ページをめくる。その本は、少し前に出版された推理小説だ。一面にびっしりと活字の並んだその本は、ヤコにとっては難しい。だが男にとっては簡単すぎるはずだ。謎を主食とし、常に飢えているこの男には。
「ねえ、それおいしいの?」
「まさか。腹の足しにはならん」
問えば即座に答えが返ってくる。当然だ。手のひらサイズの模造品で腹が膨れてたまるものか。そんなことはわかりきっている。それでも男は読むのだ。量産品のうすっぺらな謎を食むのだ。気が狂いそうになる程の空腹を紛らわすために。
食む/ヤコとネウロ/2005.12.11.
BGM/Nujabes「The Final View」