5.
けれど、そうだ……あの時、ヒル魔とムサシは二人だけ神龍寺に行くことだってできたんだ。
その可能性に今の今まで気付かなかった程、僕は幸せ者で二人は優しくて、僕達は仲間で親友で、ずっと離れることなく一緒に歩いていたんだ。
そして泥門に来て作られた、泥門デビルバッツ。テレビの横に寄せ書きをして、僕達は笑っていた。ムサシがいなくなってしまってからも、寄せ書きは変わらずに残っていて。僕はそれを眺めるたびに、三人は一緒にいるのだという事を思い出していた。
その寄せ書きが劇的に変わったのは、秋大会直前の日だった。それまで三人だった名前が、たくさんたくさん、増えた。デビルバッツの皆が名前を書いてくれたんだ。そうだ、もう僕達はひとりじゃない。三人だけの約束でもない。あの寄せ書きは昔を懐かしむ物ではなくなった。あれは、皆の誓いだ。
そうだ、そうだ。遠回りをしたけれど、絶対に行くんだ。勝つんだ。皆で一緒に。勝って行くんだ。クリスマスボウルに。
未練がましく取っておいた道着を両手で握り締める。こんなものは、もういらない。
キッ、と顔を引き締めて、僕は皆のいるグラウンドへ向かった。
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