6.
錆び付いた鉄の扉を開け、暗く涼しい階段を下る。十文字の肩は落ちきっているが、今はそっとしておいた方が良いだろう。三人でことさらゆっくりと階段を下っている途中、黒木が唐突にぽつりと呟いた。「なんかさ、パシリって大変なのな」と。
確かに。遠くまで走らされて自腹切ったり、帰ってくれば品が違うと怒られ、終いには脅迫材料ひとつ追加だ。最後のはヒル魔限定だろうが、あとは他のパシリだって変わらないだろう。そう考えると……
「そう考えると、セナって偉大だな」
「えええ!?僕!?」
「……………………は、」
「はあ、あぁあー!?テメーなんでここにいんだよ!」
声変わりを迎えていない高い声に、俺は絶句した。まったく黒木の言う通りだ。なんでこいつがここにいるんだ?しかもなんてタイミングだ?
ぎゃーぎゃーわめく黒木にビビりつつ、セナは「いやあの僕はヒル魔さんに呼ばれて」としどろもどろに答えた。その手には弁当と、缶が二つ。缶ジュースとブラックの缶コーヒーだ。それを見た十文字の背が、ピンと伸びた。そして、わなわなと震える手で缶コーヒーを指差し、こう言う。
「セナ。テメーそれどこで買った?」
「こ、こうばい、だけど」
「……」
浮上しかけた十文字の気力が、再び落下した。あーあ、どうせこいつは最初に購買へ入った黒木を止めなけりゃ良かったとか思っているのだろう。コンビニにだってブラックコーヒーくらい売ってるだろうに。
俺達が脱力したのを好機と見たらしきセナは「あの僕もう行かなくちゃ」とかなんとか言って階段を駆け上がって行った。ひ弱な体してるくせに、随分速い。入学式の日にも思ったが、あいつの逃げ足はかなり凄いのではないかと思う。パシリにはうってつけだ。俺達の直感は(真っ先にあいつをパシリにしようとした俺達の直感は)間違っていなかったのだ。現にあいつは、あの悪魔のパシリをも立派に務めている。
「やっぱ偉大だな。あいつ」
「はぁぁ?まだ言ってんのかよ」
ぼそりと呟けば、黒木が呆れた顔で言い返す。いつの間にか歩調を速めて一人で歩き出した十文字は、日陰になった階段をずんずんと下って行く。立ち直ったというよりは、あれはどこかに八つ当たりをしに行く背中だ。俺達二人は少し慌てながら追いかける。
遠くで、錆び付いた扉の開く音がした。マシンガンの音は聞こえない。やつらのいる屋上は、光で溢れている事だろう。
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three and out!!/三兄弟とヒル魔と/2006.09.18.
※タイトルはアメフト用語から拝借させていただきました。
3プレイでダウン更新できず、パントするしかない状況に追い込まれる事。だそうです。
超初期の三兄弟とヒル魔(と栗田とセナ)。4th downギャンブルなんて出来ない三人。
奴隷というかパシリですね。踏んだり蹴ったりの無い無い尽くしです。
あ、十文字の扱いがヒドイのは彼が長男だからです。じゃなくて愛です。愛ゆえに、です。
それにしてもエッライ長くなってしまいました。
最後まで読んでくれた方、ありがとうございます&お疲れ様でした。
今の仲良し泥門も大好きですが、この頃のこいつらの変な関係も好きなんです。
BGM/TSUTCHIE「numbernine[back In TYO]」