1 待ち合わせ (エリカ)
本日は快晴という天気予報を信じて洗濯物を干し終え時計を見ると、どうがんばっても約束の時間には遅れてしまう事が判明した。でもまあいいか。待ち合わせ相手はニクスだけだし。などと思いつつも、きっちりと連絡の電話を入れるあたしは、意外とリチギなのかもしれない。少なくともニクスよりは。
なにしろニクスときたら、あたしより先に待ち合わせ場所に来たためしがない。五分十分の遅刻は当たり前で、しかも慌てることなくのんびりと歩いてくるのだ。あるいは約束の三十分前に到着して、しかしその場で待っている事はせずに、近くの店(本屋だったりレコード屋だったりカフェだったり)へ入って、やはりのんびりと時を過ごすのが彼のスタイルだ。
待たされるのが嫌いなんだとニクスは言うけれど、あたしの遅刻のせいでぽっかりと空いた十分二十分三十分をいたずらに過ごしているその時こそ正に「待っている」状態なのではないかしら。あたしはそう思うのだけれども、ニクスはそう思っていないのだろう。なぜなら彼はあたしが一時間遅れても二時間遅れても、ちっとも怒らないからだ。
だからあたしも、彼が遅れた時は怒らないようにしている。待っている間にカフェへ入ったりゲーセンへ行ったり新譜の試聴をしていれば、気が紛れて怒る気も失せるのだ。しかしこれはニクスが相手だから取れる手段だ。いつもあたしより先に待ち合わせ場所へ来ているシロウや、あたしが先に店へ入っているとむくれるセリカが相手だと、まず無理だ。
軽く申し訳程度の化粧をして、アナログが入るサイズのバッグを持って、あたしは家を出る。時計の針は約束の時間を過ぎているけれど、のんびり歩いていこう。焦る必要は無い。どうせ彼は待ってなどいないのだから。