2 青一色の空 (ニクス)
正午に待ち合わせをしたエリカから「ごめん10分くらい遅れる!」という電話が来た。あいつが十分と言ったら三十分は遅れるのがお約束だ。まったくエリカはルーズな女だ。だがオレも大概ルーズな性質なので、お互い様という事になる(こんなところでもオレ達は気が合っている)。
どこかの侍かぶれと違って待つことが嫌いなオレは、待ち合わせ場所のレコードショップを素通りして、近くの公園へ入った。ぐるりと中を見渡せば、平日の真昼間だというのに意外と人が多くてうんざりする。小さなガキどもやカップルや学生やおっさんから逃げるようにきびすを返して、オレは入り口付近の花壇の縁に腰かけた。煙草を吸いたい気分になった。
ジャケットのポケットから取り出して、一本くわえる。その次にライターを取り出そうとして、困った。いくつかあるポケットのどこにもライターが見当たらないのだ。ちくしょう。仕方ないので吸う事は諦めて煙草をケースに戻し、空を見上げる。
空を見上げるというのは、子供の頃からの癖だ。青空であろうと曇り空であろうと夜空であろうと関係ない。オレはつい、ふとした瞬間に空を見上げるのだ。小さい頃は、空を飛びたいなあとか考えながら見上げていたものだが、今はもうそんな事も思わずにただ見上げるだけだ。
今日の空は青く澄んでいる。東京の空は汚いと誰かが言っていたが……確かに夜空を見上げれば、それは一目瞭然だろう(星を見れば判る)。しかし真昼の空、特に今日のように雲ひとつない青空を見る限りでは、充分キレイだ。
そのままぼうっとしていたら、ケータイが鳴った。メロディはQQQ。エリカだ。通話ボタンを押すとすぐに、エリカのやかましい声が聞こえてくる。
「ねー、今、駅に着いたんだけど、ニクスは今どこ?」
「近くの公園」
「こうえん?どこー?」
「ああ、いい。オレがそっち行く」
「うん。てゆーかあたし、お昼まだなんだよね。どっかで食べない?」
「どこでもいいけど、煙草が吸えるトコな」
「いやだいたいドコでも吸えるじゃんよ」
「じゃあドコでもいい。あ、お前今、火ぃ持ってるか?」
即座に返ってきた「持ってるよ」という言葉に安堵した。雲ひとつない青空は、あまり長い間見ていると目が痛くなる。煙草を吸って白い煙を吐きたくなるのだ。