9 怒りの対象 (セム)
「お前、デザイナーのくせに四角四面やなあ。もっと柔らかく生きんと、余計な敵作るで。例えば俺とかな」
決して焦る事無くむしろゆっくりと勿体つけてユーズは言った。そして吸殻が山になった灰皿へ短くなった煙草を押し付け、にやりと実にふてぶてしく笑う。
その顔を見ているうちに、段々と俺の中の怒りという感情が体を成して頭へと昇っていくのを感じた。ああ落ち着け。これは安い挑発だ。乗れば奴が喜ぶだけだ。そう脳内で三回ほど唱えたが、効果は無かった。それどころか先程の台詞に至るまでの経緯を思い出して、余計に腹が立ってきた。
仕事の話をしていたはずだ。今度オープンするVJカフェの内装についての話をしていたはずだ。「映像提供すんだから俺にも口出しさせろ」という彼の要求は快く受け入れた。確かに彼にはその権利がある。加えて、過去に簡単なクラブやバーの内装デザインを手がけた経験もあるというのだから、助言してもらうに越した事はない。
しかしユーズの性格を考えれば、口出しが助言程度で済むはずも無かった。まだラフの段階であるにも関わらず、ああでもないこうでもない客をなめるなお前は真性のアホか、などと散々なダメ出しを盛大にしてくれたのだ。しかも彼の発言はどれも、一理ある、と思わせるものだから性質が悪い。
黙りこくった俺を見て、ユーズは喉の奥でクッと笑った。そして新しい煙草に火を点け、また口出しを始める。