Endless days

4.視線の先 (ムサシ)

 俺は、人の感情に敏い方ではない。というか鈍いと言われる事が多い。だが、今、グラウンドの真ん中で行われている雷門と十文字のケンカは、どう見てもやばい気がする。殴り合いに発展する前に止めておかなければ。そう思い声を出そうと口を開いたら、戸叶が「大丈夫っスから、ほっといてください」と言ってきた。声のした方を振り返れば、戸叶は地べたに座り込んで漫画を読んでる。ページを捲る動きは緩慢で、視線は右から左へと誌面を滑るのみだ。
 感情が全く読めない。何を考えているのか判らない奴だな、と思った。三兄弟の中では一番おとなしいし、一人ではさしたる反抗もしないし、それなりに礼儀正しいのだが……どうにも、得体が知れない。
 「あれはアイサツみたいなもんスから」と言う戸叶は、やはり漫画に目を向けたままだ。そうか挨拶なのか、と呟いて、俺は再びグラウンドに視線を戻す。
 すると、いつの間にか十文字と黒木が怒鳴り合っていた。雷門がなんとか止めようとしているが、一人で止め切れるはずも無い。静止を振り切った黒木が、怒りもあらわな表情で十文字に掴みかかった。おいおい、随分と物騒な挨拶だな。

「おい、あれも放っといていいのか?」
「は?」

 のろのろと顔を上げた戸叶は、サングラスの奥で目を見開いた。そして「あいつらなにマジゲンカしてんだよ」と掠れた声で言い、読みかけの漫画を捨て置き、大急ぎでケンカの仲裁へと向かった。