16.褒め言葉 (鈴音)
妖一兄みたいなお兄ちゃんが欲しかった。なまじ良い意味でも悪い意味でも突き抜けている馬鹿兄貴を持つ私は、本気でそう思っていた。妖一兄は頭の回転が物凄く速いし、なんかの問題にぶち当たっても、ぱぱっと解決しちゃう。みんなに出す指示はいつも適確だし、なんだかんだで面倒見も良かったりして凄く頼りになる。
でもよくよく考えてみると、妖一兄はお兄ちゃんというよりは上司とか社長さんとか王様とか、なんていうか、人の上に立って指揮を執る人……指揮官とか司令官とか……うーん、司令塔、の方がしっくりくるかもね。なんてことを考えながら、私は妖一兄を見ていた。
私が描いてきたグッズの図案をまも姐に「FAX流しとけ」と渡しつつ、キーボードをカタカタ弾きつつ、クリタンに月刊アメフトを放り投げて「折ってあるトコは一年連中にも見せとけ」と言った妖一兄は、ふと私を見た。そして私は妖一兄を見ていたわけだから、当然ばっちりと目が合う。でも妖一兄は表情を変えずに「何か言いたそうな顔だな」なんて言う。人の心が読めるんじゃないかって思っちゃうくらいのタイミングだ。
「なんかさ妖一兄って、司令塔って感じだなーって、思ったの」
私がそう言うと妖一兄は笑った。なぜか上機嫌で「言うじゃねえか」とか言って、新しい板ガムの封を切った。そこから一枚だけ抜き取って、あとは全部、私へ放り投げてきた。咄嗟に出した手の中にすっぽりと納まった板ガムを見て、そういえばQBはチームの司令塔と言われるポジションだった、と私はやっと思い出した。