Endless days

17.帰る (ヒル魔)

 鈴音がデザインしたグッズの発注を出したら、仕上がりは一週間後になるとの返信が来た。ふざけんなそんなに待てるか三日で仕上げろ、と電話で直接お話したら、向こう様は快く了承してくれた。余計な手間かけさせやがって。最初から三日って返信しとけよあの糞店長。お陰でもう時計の針は十時を回っている。そろそろ帰らなければならない時間だ。
 鞄を肩にかけて部室のドアを開けて外に出る。そして鍵を閉めると、……ケルベロスが寄ってこない。どういう事だ。いつもなら俺の足元に駆け寄ってきて、僅かに残った犬らしさを精一杯アピールするというのに。
 ちらりと犬小屋を見ると、ケルベロスは人間じみたイビキを掻いて寝ていた。すぐ近くまで歩を進めると、奴はのろのろと目を開ける。俺がしゃがんで目線を近くすると、欠伸混じりに「今日は疲れたんだ」と言ってくる(俺は動物の言葉など判りはしないが、こいつの言葉だけはわかる)。その言い方が、まるでくたびれた老人のように思えて、俺は少しいらつく。お前は獰猛であるべきだ。腹が減ったとがなり立てて暴れている位が丁度良い。
 それらの不満はガムで作った風船の中に閉じ込め、片手でケルベロスを抱き上げた。すると奴は少し驚いて、ガフォ、と鳴いた。そして「そんなに疲れてんなら今日は風呂に入れてやるよ。俺ん家は温泉じゃねえけどな」と言ってやれば、ケルベロスは俺の肩にしがみつき、小さな尻尾をばたばたと忙しなく振った。