2.
「遅ぇ」
ぜぇぜぇと息を乱すどころか、喉からひゅうひゅうと妙な音を出しまくりつつ屋上へ辿り着いた俺達に、ヒル魔は素っ気なく言った。怒鳴られるよりはマシかもしれないが、これはこれでムカツク。しかし文句を言う気にはなれない。ヒル魔妖一は噂以上の悪魔だ。俺達は身をもってそれを思い知ったのだから、口答えなんて出来るわけが無い。ただ黙って耐えるだけで精一杯だ。
ヒル魔は日の当たる屋上の隅(一番日当たりのいい場所だ)に座ったまま、ロクにこっちも見ずに右手で何かを、ぽーんと放った。綺麗な放物線を描いて十文字の手にちょうど収まったそれは、八つ折にされた千円札だった。
一体何のつもりだ?隣の黒木と目が合ったが、奴も「わけわかんねぇ」という顔をしている。ところが十文字はこめかみに青筋を立て「まさか、」と呟いてから、ヒル魔を睨んだ。
悪魔は手元のアメフト雑誌を捲りながら告げる。
「から揚げのレッドとタコスと無糖コーヒー。あと2リットルのミルクティとカツサンドタマゴサンドえびタマロール各3本。さばの味噌煮込みロールとあんぱんジャムぱんもちチーズぱん。ついでに方眼紙と赤の油性ペン。極太な」
「……は、」
「はぁ?」
「はぁぁぁあああ!?パシれってか!?」
「つーかそれ1人で食う量じゃねーだろ!」
「つーか明らかに予算オーバーだろ!」
「つーかさば」
「早く行け。6分以内だ」
絶対零度の目でそう言われれば、俺達はもう行くしかない。しかも六分という計算し尽くされたような制限時間内に、帰ってこなければならない。ああちくしょう。
怒りと悔しさと引き攣る顔の筋肉を抑えながら、俺達は階段を駆けずり降りた。