3.
落ちるような速さで一階へ着いた。大急ぎで、俺達の中では一番足の速い黒木が先陣を切って購買へ入る。案の定、中は混んでいるが……まあ、脅すなりヒル魔の名前を出すなりすれば、六分どころか三分以内に戻れるだろう。と俺(と黒木)は踏んでいたが、十文字は違った。ヤツは黒木の腕を掴み、購買を出て廊下を走って行ってしまった。
「おい十文字!?」と俺達の声がハモったが、当人は足を止めずに顔だけをこちらへ向けて言った。
「他のもんはともかく、さばの味噌煮込みロールなんて、購買にあるわけねーだろ!」
言われてみれば確かにそうだ。というかそんな胡散臭い商品は見た事が無い。……いや、どこかで聞いた事があるような気が……どこでだったか。
……あ、そうだ、
「SONSONか!」
そう。あのいまいちメジャーになれていないコンビニは、定期的に微妙なフェアを開催している。そしてその度に、妖しげな新商品を量産している。大半はフェア終了と同時に黒歴史として闇に葬られるのだが、人気のあった商品は継続して販売されたりする。さばの味噌煮込みロールは、そのうちのひとつだ。どんな客層に人気があるのかは不明だが、わりと売れているらしく、今も店頭に生き残っている。
って、事は、
「一丁目商店街まで行けって事かよッ!?」
「はあああマジかよあの悪魔!」
叫びながらも俺達は走る。まあ冷静に考えれば黙って走った方が疲れないのだが、叫ばずにはいられなかった。
校門の真ん前の横断歩道も踏み切りも、とにかく全速力で突っ切った。赤信号や遮断機よりも、あの悪魔の方が数億倍怖い。六分で行って帰るのは無理だろうが、だからといってスピードをゆるめる訳にもいかない。ヤツに知れたら、後でどんな目に合う事か。きっと俺の想像の斜め上を行く仕打ちが用意されているに違いない。と思わず斜め上を見上げれば、晴れた空がサングラスの向こうに映る。まだ四月だって言うのに真夏みたいに太陽がギラギラ光ってる。ああちくしょう暑くて仕方ない。
「見えた!」
いち早く視界にSONSONを捉えた十文字が叫び、ぐんっと加速する。追い抜かれた黒木も、負けじと加速した。別に競争しているわけでもないのに、なにデットヒートかましてるんだこいつらは。
ほぼ同時に店へ着いた二人は、自動ドアをこじ開けんばかりの勢いで店内へ入った。