4.
確かブラックコーヒーと2リットルのミルクティとサンドイッチとあんぱんとかだよな。あと赤マジックと方眼紙。
あやふやな記憶を頼りにカゴへがんがんと商品を入れていく。レジでタコスとから揚げ(辛いヤツ)も注文すると、当然のように金額は千円を大幅に超えた。オーバーした分はとりあえず十文字に払わせて(黒木は小銭しか持っていなかったし俺は漫画代しか持っていなかった)、今度は学校へと走る走る。のんきそうなパートのおばちゃんが「さばロールを男の子が買うなんて珍しいわねぇ」と興味深い事を言っていたが、構っているヒマは無い。後でどんな客が買っているのか聞いてみたい気もするが……。
そうこうしているうちに校門が見えてきた。流石に叫ぶ余裕の無くなってきた俺達は、無言で校内へ駆け込み、廊下を走り、階段を駆け上がる。そしてあとは、重い鉄の扉を開けば、ようやく屋上に辿り着く所まで来た。
最後の力を振り絞って、ギィと錆び付いた音を立てて扉を開けば、
「わぁっ!ほんとうに買ってきてくれたんだぁ!」
丸っこい顔をぱあっと輝かせた栗田が駆け寄ってきた。晴れた空をバックに、本当に嬉しそうに笑ってやがる。
……ヒル魔だけでも心臓に悪いってのに、栗田まで屋上に来てるのかよ。仲良くランチか?おめでてぇな。というかこのサンドイッチとパンとさばロールは、栗田の分だったのか。なるほど納得だ。
「大丈夫?ごめんね?でも、ありがとう!」
……礼を、言われてしまった。
もしかして俺達はヒル魔にパシらされたというよりは、このデブにパシらされたのだろうか?そんな疑問が湧いてきて、俺は意図せずにガンを飛ばしてしまった。するとニコニコと笑っていた巨体が、体ごとびくりと竦んだ。ハ、デカイ図体してビビリかよ?などと口にしたら、このデブはキレるだろうか。そんな事になったら、今度は投げ飛ばされる程度じゃ済まねえだろうな。くわばらくわばら。
そして悪魔は、礼の一つも無しに十文字が持っている袋をガサガサ漁っていた。2リットルのミルクティを栗田へ放り、自分はブラックコーヒーを掴み、十文字の頭へ叩き付けた。……って、何してんだ!?すげえ音がしたぞ今!
あまりの痛さに頭頂部を抑えうずくまる十文字へ、悪魔は冷徹な目を向ける。更に、普段より1オクターブは低い声でこう言った。
「テメーらは3人もいんのに買い物のひとつも満足にできねえのか?」