6 交流 (デュエル)
クジャクは日本語が上手くない。というよりは、上手くなろうという気概が無い。向上心が欠落しているのではないか。
一番最初に三人で飲みに行ったとき、真っ先に潰れたクジャクの頭をぺしぺしと叩きながら、俺はそうぼやいた。するとサイレンは苦笑して「でも、クジャクはすごいのですよ」と慣れない日本語を駆使してクジャクを庇った。曰く、クジャクは言葉の通じない相手とも会話ができるのだ、と。
あの時の言葉の意味が判ったのは、つい最近だ。いつものゲーセンへ行こうと、日の暮れ始めた空の下を歩いていた時。その途中に、クジャクの姿を見つけた時だ。
彼の隣には、見覚えの無いアジア系の老人がいた。クジャクは楽しそうな笑顔で身振り手振りを交え、何事か話している。随分と親しげな様子だ。友達、にしては年が離れすぎている。近所の住人、だろうか?
老人がくすくすと笑いながら頷くと、クジャクは満足した様子で大きく頷き、別れを告げ、こちらへ歩いてきた。老人もクジャクへ背を向けて、道を右に折れて行った。
「お、デュエル。おまえもゲーセン行くの?」と俺に気付き手を振るクジャクに「さっきの人、お前のご近所さんか?」と訊けば、彼は首を横に振る。はて、ではどんな仲なのだろうか。
「今、会ったんだ。どこの国の人かわからないけど、子供と待ち合わせしてるって。場所がわからないって言うから、教えただけ」
「……言葉、通じたのか?」
「何語なのかわからなかった。でも大丈夫。場所はわかったみたいだから」
僅かな迷いも見せずにクジャクは答えた。きっと彼にとっては、よくある事なのだろう。
こいつは言葉を覚えようとはしないが、覚えずとも身振り手振りで会話ができるのだろう。先程の光景を思い出し、こいつはどんな国へ行っても、人とコミュニケーションを取る事ができるだろうと確信した。こいつはどんな国へ行ってもやっていけるに違いない。ああ、サイレンの言っていた通りだ。クジャクは凄い。
「悪かったな」と、あの時の非礼を詫びたが、当然クジャクには伝わらなかった。彼は眉をひそめて、んん?と唸ったが、すぐに笑ってこう言う。
「えっと、あれだ、いちにちさんぜん!毎日ごはんを3回食べるのと同じに、いいことを3回しましょうっていう、ことわざ!」
「それを言うなら一日一善だ!しかもことわざじゃなくて四字熟語だ!」