1. いつもの兄弟1

 今更言うまでもなく、イギリスは料理が下手だ。
 パンを焼けば炭になるし、肉を焼けばタイヤのゴムみたいになるし、野菜を煮込めば何が何だか判らないくらいぐちゃぐちゃになる。カレーだけはおいしいけれど、あれは鍋に入れられたスパイスが全力でフォローしてくれているからに違いないんだ。
 でも、大見得を切っておいしいと言えるものもある。ひとつめは紅茶で(これだけは文句の付けようがない)、ふたつめは果物をふんだんに使ったジャムだ。
 特にワイルドストロベリーのジャムは最高だ。パンに塗ったりしなくても、そのままいくらでも食べられる。具体的に言うと、いつまでたっても出てこない朝食を待ちきれずに、まるまる二瓶を食べきれるほどおいしい。

「おいこらDamerica!人の話を聞け!」
「え、なんだい?だめりかって?」
「ジャムだぞジャム!しかも二瓶!砂糖何ポンド入ってると思ってんだこのメタボ野郎!」
「イギリス!その言い方は酷いぞ!」

 というようなやり取りをいくつか繰り返し(イギリスは口が悪すぎる。そんなんだから友達ができないんだ)、最後には「責任とって裏庭でラズベリー摘んでこい!」という叫びと共に鉄製のバケツを投げつけられた。
 きびすを返してキッチンへと戻る彼の背中は不機嫌そうだ。
 しかし顔面めがけて飛んできたバケツを両手で受けとめた俺は、実を言うと少しにやけていた。だって、今度はラズベリーのジャムが食べられるのだから!

いつもの兄弟1/2008.11.23.
・Damerica=日本語
・たぶん日本が愚痴ってるのを聞いて覚えた