3. 少年の機転

 シー君は森の中を全速力で走ってるのに、アメリカは軽々とついてくるです。やっぱり大人は足が速いです。ちょっと悔しいですよ……でも!シー君だって、これからでぇーっかくなるのです!そしたらアメリカなんか、笑いながらスキップして追い越してやるのですよ!
 でも今は今で、やるべきことがあるのです。それは、一秒でも早くアメリカをこの裏庭から追い出すことです。なぜなら、この裏庭にはシー君の秘密基地があるからです!
 それは森の西の栗の木の下の古井戸の中にあるのです。からからに乾いた古井戸の中に入って下に降りると、そこには大きな横穴が空いています。穴の中をずんずん歩いていくと、一番奥に、何もない小さな部屋があるです。その部屋こそがシー君の秘密基地なのですよ。
 まだ誰にも秘密なのです。ラトビアにだってちょっとしか話してないです。イギリスだって絶対気付いてないですよ。だからアメリカにも知られるわけにはいかないのです!
 なにせあのホコリだらけだった部屋はシー君自ら掃除をして、家具を運んで(まだランプとマットレスと古い昔の地図しかないですけど、これから増えるですよ!)、ちゃくちゃくと改装を続けている場所なのです。それはそれは大事な場所なのですよ!

「なに笑ってるんだい?」
「うっわああ!?きゅ、きゅうにっ、」
 話しかけるんじゃねーですよ!と言おうとしたのに、それどころじゃなくなったです。木の根っこに足が引っかかったのです。平たく言うと、シー君は転んだのです!いやいやでも大丈夫です。イギリスの野郎だって「転んだ分だけ強くなれる」って言ってたです!(なぜか遠い目で言ってたですけどね!)
 という感じで、シー君は覚悟を決めていたのです。でも、いつまでたっても地面にぶつかりません。そのかわりにマフラーがぎゅっとしまって、首が苦しくなりました。……おかしいです。なんなのですかこれは!
「大丈夫か!?」
「く、くるしい、です」
「え!どっどどどこか怪我でも!?」
「くび、くび」
 マフラーを前からつかんで引っぱると、やっと首が楽になったです。でも、詰まっていた空気が一気に出て行って、また苦しくなりました。
 そしてそのまましゃがんで咳き込むと、アメリカの野郎もしゃがんで、大きな手でぼくの背中をさすり始めたです(大人は手もでかいです)。この手がマフラーをつかんだのですね。まったく、油断のならない野郎です!
 でもアメリカはすごく心配そうな顔をしてるです。「ごめん」とか「大丈夫かい?」とか、何回も言ってます。転んだだけなのに心配しすぎですよ。というか転んだのも首絞められたのもぼくなのに、なんでアメリカが心配するですか。なんだか、このまま放っておいたら泣いちゃいそうな顔してるですよ。大人のくせに、なさけないです!

 ま、シー君は分別のつく子供ですから(子供だけど、そんじょそこらのオトナより立派なのです)、そんな顔した人にムチ打ったりはしないのです。ちゃんと優しい言葉で安心させてやるのですよ。
「そんなに心配しなくても平気なのですよ」
「……本当に?」
「本当です!だいいち、シー君は何回転んでも平気なのです」
「でも、」
 まったくじれったい野郎です!もっとカラっとした野郎だと思ってたのに、なんでこんな余計な心配するですか?意味がわからないです!
「じれったいですよこの野郎!イギリスだって、転んだ分だけ強くなれるって言ってたです!つまりシー君のボディは転べば転ぶほど強化されるのです!だから平気なのです!」
 立ち上がって人差し指を突きつけながら怒鳴ってやったら、アメリカはびっくりした顔で黙ったです。よしよし。説得は成功しました!

 あとはさっさとラズベリーを摘んで、さっさと裏庭を出るのみです!
「いつまでも座ってないで、急ぐですよ!」
 そう言って歩きだしたら、アメリカはなんだかはっきりしない返事をして、大人しくついてきたです(静かすぎて不気味です)。
 でも森を抜けてラズベリーの木を見つけたら、一気にうるさくなったです。しかも「こんなにいっぱいあったんだ!」とか「おいしそうだなあ」とか言って、摘んだ実をバケツじゃなくて口に入れて、ばくばくと食べてしまったのです。後でイギリスに怒られても知らねーのですよ!

少年の機転/2008.11.30.
メリカは子供と小動物に弱そうだと思います。